口腔に症状が現れる細菌感染症

口腔に症状が現れる細菌感染症を参考書から抽出してまとめてみました。現在ではワクチンの普及により国内での感染者がほとんどいないものも含まれていますが、一度落ち着きを見せた梅毒患者が近年増加傾向であるように、いつどの感染症が流行するかわからないと考え、とりあえず、見つけたものはすべて書き出しています。

【参考文献】

医学書院 標準微生物学 第14版
国立感染症研究所HP

猩紅熱

猩紅熱はA群溶血性レンサ球菌(化膿レンサ球菌)による小児の感染症である。

2~4日の潜伏期の後、高熱や咽頭炎・扁桃炎で始まり、頸部や上胸部から紅斑が出現する。口囲蒼白イチゴ舌もみられる。極期には皮膚一面にびまん性に発赤する。発症4~5日目の回復期には、指や爪先からの落屑がみられる。

ペニシリン系抗菌薬により治療する。

破傷風

破傷風は破傷風菌による感染症である。5類感染症に指定されている。

創傷部の壊死やほかの細菌との混合感染により嫌気状態になったとき、破傷風菌が増殖・毒素が産生され、症状が引き起こされる。

3~21日の潜伏期の後、開口障害や頸部の緊張などの症状に始まる。病期が進むと、顔面筋の硬直や全身痙攣、排泄障害、発汗、発熱、腱反射の亢進などがみられる。全身痙攣が消失すると、筋肉の硬直が続き、次第に正常に戻っていく。全身痙攣の起こる頃が最も生命の危険な時期である。

治療はペニシリン系抗菌薬や筋弛緩薬、抗痙攣薬などで行われる。

食餌性ボツリヌス症

食餌性ボツリヌス症はボツリヌス菌による感染症である。5類感染症に指定されている。ボツリヌス菌が食品中に産生した毒素を摂取することで発症する。

通常、食品摂取後12~48時間で発症する。複視や眼瞼下垂などの眼症状から始まることが多く、倦怠感や口渇、腹痛、上肢・下肢の弛緩性麻痺、呼吸筋麻痺などの症状が現れる。重症になると呼吸困難で死亡する場合がある。特徴は発熱がないことである。

治療は抗ボツリヌス毒素ウマ血清により行われる。

梅毒

梅毒は梅毒トレポネーマによる感染症で、5類感染症に指定されている。性的接触により感染する。

1ヶ月程度の潜伏期を経て、硬性下疳無痛性横痃などの症状が現れる。これらの症状は3~4週間程度で消失するが、感染から1~3ヶ月程度以降、バラ疹や乾癬、扁平コンジローマ、口腔粘膜疹などが出現する。

母親から経胎盤的に梅毒トレポネーマに感染した先天梅毒児では、無治療の場合、実質性角膜炎や内耳性難聴、ハッチンソン歯といった“ハッチンソン三徴候”がみられることがある。

治療はペニシリン系抗菌薬の長期投与により行われる。

ジフテリア

ジフテリアは、毒素を産生するタイプのジフテリア菌による感染症である。2類感染症として届出が必要となっている。

ジフテリア菌は主に小児の上気道粘膜に感染し、2~5日程度の潜伏期を経て、発熱や咽頭痛、嚥下痛などの症状を出現させる。扁桃や咽頭周辺部に白色または灰白色の偽膜を形成するのが特徴である。偽膜が鼻腔へ移行すると鼻咽頭ジフテリアに、喉頭や気管へ移行すると喉頭ジフテリアになる。喉頭ジフテリアでは気道が偽膜で閉塞されることにより、呼吸困難で死亡する場合がある。

1~6週間の回復期を経た後、軟口蓋や呼吸筋、眼球筋、四肢筋などに弛緩性麻痺を起こすことがある。これをジフテリア後麻痺という。

治療は抗毒素血清(乾燥ジフテリアウマ抗毒素)やペニシリン系抗菌薬、エリスロマイシン(マクロライド系抗菌薬)などで行われる。なお、日本ではDPTワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風混合ワクチン)の普及により、発症者は年間で1人程度しか報告されていない。