スタフィロコッカス属(ブドウ球菌属)の主な病原細菌と感染症、薬剤耐性菌について、菌の特徴とともに記載する。
【参考書籍】
医学書院 標準微生物学 第14版
スタフィロコッカス属細菌の特徴
まずはスタフィロコッカス属(ブドウ球菌属)細菌の特徴から見ていく。
特徴は下記のとおり。
- グラム陽性球菌
- 通性嫌気性菌
- 耐塩性あり
- 直径約1μm
- ブドウの房状に配列
- 莢膜を形成するものがある
- ヒトや動物の皮膚や粘膜に常在
スタフィロコッカス属(ブドウ球菌属)の細菌は、グラム陽性通性嫌気性球菌である。酸素があってもなくても増殖できる、グラム染色で紫色に染まる球菌ということだ。ヒトや動物の皮膚や粘膜に常在している。
大きさは直径約1μmで、ブドウの房状に配列している(だから“ブドウ球菌”)。鞭毛や線毛はないが、莢膜を形成するものがある。莢膜は病原因子となる。
耐塩性のため、高濃度の食塩を含んだ培地でも培養が可能である。
スタフィロコッカス属の主な病原細菌と感染症
では、スタフィロコッカス属(ブドウ球菌属)の主な病原細菌は何かというと、
- 黄色ブドウ球菌
- 表皮ブドウ球菌
- 腐生ブドウ球菌
である。
以下にそれぞれの菌が引き起こす感染症を挙げる。
黄色ブドウ球菌感染症
黄色ブドウ球菌感染症は、「化膿性炎症疾患」「毒素性疾患」に大別される。
化膿性炎症疾患には、
- 皮膚軟部組織感染症
- 血流感染症
- 筋骨格系感染症
- 呼吸器感染症
がある。
- 毛包炎(毛嚢炎)
- 蜂窩織炎
毛包炎(毛嚢炎)は、黄色ブドウ球菌が皮膚の傷から侵入し、毛包で増殖することで起こる。また、蜂窩織炎は、毛包炎と同様に皮膚の傷から侵入し、皮下組織にまで感染が及ぶことで起こる。
- 敗血症性ショック
- 心内膜炎
黄色ブドウ球菌は血液中に侵入すると菌塊をつくる。菌塊が血液中に増えると敗血症性ショックが起こる。また、菌塊が血流に乗って心内膜に運ばれると、心内膜炎が起こる。
- 骨髄炎
- 関節炎
黄色ブドウ球菌が血流や軟部組織からの感染の波及などで骨や関節に移動し増殖すると、骨髄炎や関節炎を起こす。
- 敗血症性肺塞栓
- 人工呼吸器関連肺炎(VAP)
黄色ブドウ球菌の菌塊が血流によって肺動脈へ運ばれると、敗血症性肺塞栓を起こす。また、人工呼吸器に付着した黄色ブドウ球菌が肺で増殖すると肺炎を起こす。この肺炎を人工呼吸器関連肺炎(VAP)という。
毒素性疾患には、
- 毒素性ショック症候群(TSS)
- 毒素型食中毒
- 水疱性膿痂疹・ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群
がある。
黄色ブドウ球菌の産生するTSST-1やエンテロトキシンなどの毒素が原因で、毒素性ショック症候群(TSS)が起こる。
TSST-1を産生する黄色ブドウ球菌を保有している者が生理用タンポンを長時間使用すると、菌がタンポン内で増殖し、血液中に侵入することでTSSを起こすことがある。
黄色ブドウ球菌が食品中で産生したエンテロトキシンを経口摂取すると、食中毒が起こる。毒素をそのまま摂取するので、症状が出るまでの期間は1~6時間と短い。症状は12時間以内に改善し、特別な治療をする必要はない。
エンテロトキシンには胃酸耐性や耐熱性があるため、通常、摂取前に失活させることはできない。
黄色ブドウ球菌が産生する表皮剥脱性毒素(ET)により、水疱性膿痂疹が起こる。この疾患では掻痒を伴う水疱を形成する。ヒトからヒトへ移るため、伝染性膿痂疹(“とびひ”)に分類されている。
また、ETはブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群の原因にもなる。この疾患では全身に熱傷様の表皮剥離が起こる。主に新生児や乳幼児で見られる。
表皮ブドウ球菌感染症
表皮ブドウ球菌は皮膚の常在菌であるため、通常は感染症を起こさない。しかし、カテーテルをはじめとする医療器具により、血液中や腹腔内、髄液中など本来は無菌であるところに侵入すると、感染症を起こすことがある。
腐生ブドウ球菌感染症
腐生ブドウ球菌は膣に存在し、若年女性の尿路感染症の原因となる。
スタフィロコッカス属(ブドウ球菌属)の薬剤耐性菌
スタフィロコッカス属(ブドウ球菌属)には、下記のように薬剤耐性をつけた菌がある。
- メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)
- バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)
メチシリンはβ-ラクタム系のペニシリン系抗菌薬。バンコマイシンはグリコペプチド系抗菌薬。
MRSA感染症の治療にバンコマイシンが用いられるが、それに耐性をつけた菌(VRSA)も出てきており、問題となっている。