【歯科衛生士の微生物学】細菌の物質輸送

細菌の物質輸送について解説します。

物質輸送とは

物質輸送とは、細胞膜を介して菌体外から必要な物質を取り込んだり、逆に不要な物質を排出したりすること。細菌では、遺伝子や毒素をほかの菌や組織に受け渡すことも物質輸送のひとつです。

細菌の物質輸送のしくみ

細菌には大きく分けて下記の物質輸送のしくみが存在します。

  • 受動輸送系:エネルギーを利用せずに物質輸送をするしくみ
  • 能動輸送系:エネルギーを利用して物質輸送をするしくみ
  • ホスホトランスフェラーゼ系:糖を取り込むためのしくみ

「ホスホトランスフェラーゼ系」は細菌特有のしくみです。

細菌の受動輸送系・能動輸送系には下記のようなものがあります。

  • 受動輸送系の例:チャネル
  • 能動輸送系の例:ABC輸送体・タンパク分泌装置・共輸送体・対向輸送体・単輸送体

受動輸送系

受動輸送系の例として「チャネル」が挙げられます。

チャネル

チャネルは膜タンパク質がつくる親水性の孔。物質が濃度勾配(濃度の高低)に従って膜内外に移動するときに利用されます。

グラム陰性菌の外膜にある「ポーリン」は、チャネルの役割を担っています。

細菌の細胞膜の構造についておさらいしたい方は、下記の記事をご覧ください。

【歯科衛生士執筆】細菌学【歯科衛生士執筆】細菌学

能動輸送系

能動輸送系の例として挙げられるのは下記の輸送体です。
※輸送体:物質輸送に関わるタンパク質の総称

  • ABC輸送体
  • タンパク分泌装置
  • 共輸送体
  • 対向輸送体
  • 単輸送体

ABC輸送体

ABC輸送体の「ABC」は「ATP-binding cassette(ATP結合カセット)」の略。ATPのエネルギーを利用して物質輸送をします。膜貫通型のタンパクです。

ABC輸送体は下記の役割を担っています。

  • 栄養素や金属イオンの取り込み
  • 細胞壁成分の細胞表層への輸送
  • タンパク分泌

タンパク分泌装置

タンパク分泌装置は、菌体内でつくられたタンパク(遺伝子を含む)を菌体外に分泌する装置です。外毒素はこの装置を利用して分泌されます。

グラム陰性菌では4つの型に分類されます。

  • Ⅰ型:細胞質内から直接細胞外に分泌するもの
  • Ⅱ型:シグナル配列のペプチド鎖をもつタンパクを分泌するもの
  • Ⅲ型:鞭毛の基部と共通の構造を成し、宿主細胞内にタンパクを直接注入するもの
  • Ⅳ型:接合線毛と共通の構造を成し、宿主細胞内にタンパクとDNAを直接注入するもの

グラム陰性菌の多くのタンパク毒素はⅡ型で分泌されます。

Ⅲ型・Ⅳ型のように宿主細胞に直接注入されるタンパクは外毒素とは言わず、「エフェクター分子」と言います。エフェクター分子は細胞外に出ることがないため免疫応答を受けず、抗体ができません。また、Ⅳ型ではDNAも注入されるため、宿主細胞内で増殖することが可能です。

共輸送体

共輸送体は、細胞膜内外の2つの物質を同じ方向に輸送するもののことです。

対向輸送体

対向輸送体は、細胞膜内外の2つの物質を反対方向に輸送する(交換する)もののことです。

単輸送体

単輸送体は、細胞膜内外の物質を1種類だけ輸送するもののことです。機能的には「チャネル」と同じですが、構造や機序が異なるため区別します。

ホスホトランスフェラーゼ系

ホスホトランスフェラーゼ系は、糖を細胞内に取り込むためにリン酸化する、細菌特有のしくみです。

細胞内に取り込まれた糖は解糖系に入り、代謝されていきます。

細菌の物質輸送についてのまとめ

  • 物質輸送:細胞膜を介して菌体外から必要な物質を取り込んだり、逆に不要な物質を排出したりすること
  • 細菌の物質輸送のしくみ:受動輸送系・能動輸送系・ホスホトランスフェラーゼ系
  • 受動輸送系:エネルギーを利用せずに物質輸送をするしくみ
  • 能動輸送系:エネルギーを利用して物質輸送をするしくみ
  • 細菌の受動輸送系の例:チャネル
  • 細菌の能動輸送系の例:ABC輸送体・タンパク分泌装置・共輸送体・対向輸送体・単輸送体
  • 輸送体:物質輸送に関わるタンパク質の総称
  • チャネル:物質が濃度勾配に従って膜内外を移動するときに利用される親水性の孔
  • ABC輸送体:栄養や金属イオンの取り込み・細胞壁成分の細胞表層への輸送・タンパク分泌
  • タンパク分泌装置:グラム陰性菌ではⅠ型・Ⅱ型・Ⅲ型・Ⅳ型がある
  • タンパク分泌装置Ⅰ型:細胞質内から細胞外へ直接タンパクを分泌
  • タンパク分泌装置Ⅱ型:シグナル配列のペプチド鎖をもつタンパクを分泌(多くのタンパク毒素がこの型で分泌)
  • タンパク分泌装置Ⅲ型:鞭毛の基部と共通の構造を成し、宿主細胞内にタンパク(“エフェクター分子”)を直接注入
  • タンパク分泌装置Ⅳ型:接合線毛と共通の構造を成し、宿主細胞内にタンパク(“エフェクター分子”)とDNAの両方を直接注入
  • エフェクター分子:菌体から宿主細胞内に直接注入されるタンパクのこと(細胞外に出ないため免疫応答が起こらない)
  • 共輸送体:膜内外の2つの物質を同じ方向に輸送するもの
  • 対向輸送体:膜内外の2つの物質を反対方向に輸送する(交換する)もの
  • 単輸送体:膜内外の物質を1種類だけ輸送するもの(機能はチャネルと同じだが、構造・機序の違いにより区別)
  • ホスホトランスフェラーゼ系:糖を細胞内に取り込むためにリン酸化するしくみ(細菌特有)