細菌の病原因子

細菌が病原性を示すための因子とは何かをまとめました。

参考書籍

医学書院 標準微生物学 第14版

付着・定着因子

細菌が宿主細胞や組織に付着・定着するための因子には、「線毛」「バイオフィルム」「Ⅲ型分泌装置」がある。

線毛

線毛をもつ細菌は、宿主細胞表面の糖タンパク質や糖脂質からなる受容体に結合することで細胞表面に付着する。

バイオフィルム

バイオフィルムとは、細菌が菌体周囲に形成する粘液多糖のこと。これにより組織に付着する。バイオフィルムは歯や呼吸器、尿路、膣、小腸、時にはカテーテルや心臓の人工弁などで形成される。

バイオフィルムの中の細菌は、食細胞や抗体、抗菌薬の作用から逃れるため、物理的に除去できない部位で形成されると治療を難化させる。

Ⅲ型分泌装置

腸管病原性大腸菌や腸管出血性大腸菌などは、線毛により宿主細胞表面に付着すると、Ⅲ型分泌装置から宿主細胞内にエフェクター分子を注入する。その結果、宿主細胞の表面に台座構造が形成され、細菌が固着する。

細胞侵入因子

細菌が宿主細胞内に侵入するための因子には、「宿主細胞の受容体を利用するもの」と「宿主細胞がもつ機能と協調するもの」がある。

宿主細胞の受容体を利用するもの

細菌の表層構成成分が、宿主細胞の「異物取り込みシグナルを伝達する受容体」に結合することで、細胞骨格を変え、菌体を取り込ませる。

宿主細胞がもつ機能と協調するもの

Ⅲ型分泌装置から宿主細胞の異物の取り込みを促すようなエフェクター分子を注入し、細胞骨格を貪食に適すように変えたり、貪食を促したりして細胞内に侵入する。

栄養獲得に伴う宿主組織の障害因子

細菌が増殖のために用いる栄養を宿主細胞から獲得しようとするとき、「酵素」や「シデロフォア」によって宿主細胞や組織を破壊する。

酵素

宿主細胞から栄養を獲得するためにさまざまな酵素が分泌されるが、これが宿主組織を破壊する。

たとえば、細胞外マトリックスを破壊したり、フィブリンを分解・凝固系を活性化することで感染部位の微小血管の循環不全を起こしたりする。微小血管の循環不全が起こった結果、抗体や補体、好中球が感染部位の菌に近づきにくくなり、感染が進行する。

シデロフォア

シデロフォアは細菌がもつ、三価の鉄イオン(Fe³⁺)とキレート結合するタンパク質。シデロフォアによって宿主細胞から鉄イオンを奪い取り、増殖に利用する。

免疫監視機構回避因子

病原細菌のなかには、莢膜をもっていたり、細菌の表層成分を科学的に変化させたりするものがある。これらの細菌は、宿主に病原細菌として認識されることから逃れ、食細胞による貪食を受けにくくする。

莢膜

莢膜を構成するのはヒトの体内にも存在する糖やアミノ酸。よって、食細胞から異物として認識されづらく、貪食されづらい。また、莢膜は細胞壁を覆っているため、補体の活性化による攻撃も受けにくい。

細菌の表層成分の化学的変化

リポ多糖(LPS)や鞭毛の一部を変化させたり、タンパク質を産生したりして、免疫に関わる受容体による認識から逃れる菌がある。

食細胞抵抗因子

細菌は通常、好中球やマクロファージなどの食細胞に貪食される。細菌が食細胞に貪食されると、食細胞内に食胞が形成され、リソソームと融合し、活性酸素や酵素などにより殺菌される。

しかし、なかには食細胞によって貪食された後、殺菌に抵抗し、細胞内で増殖できる細菌がある。

このような細菌は、

  • 食胞とリソソームの融合が起こる前に食胞を破壊し、細胞質内に逃げ込む
  • 食胞とリソソームの融合を阻害する(=食胞内で増殖する)
  • 食胞とリソソームの融合が起こっても殺菌に抵抗する

といった機構をもっている。上記が食細胞に抵抗する因子である。

ちなみに、食胞を「ファゴソーム(phagosome)」といい、リソソーム(lysosome)と融合することを「P-L fusion」という。