【歯科衛生士の微生物学】微生物学史上の人物

微生物学史上の人物のまとめ。教科書に太字で書かれていた6人を抜粋。

参考書籍

系統看護学講座 専門基礎分野 疾病のなりたちと回復の促進④ 微生物学 第11版第6刷

レーウェンフック(1632~1723年)

レーウェンフックは微生物の第一発見者。オランダの一般市民。レンズ作りが趣味。

微生物を発見

自作のレンズを顕微鏡に組み込み、身の回りにあるさまざまな物を観察。その際に細菌や真菌、原虫を発見。これが人類史上初の微生物の観察となる。スケッチもしている。「趣味が高じる」の良い例。

ジェンナー(1749~1823年)

ジェンナーは「種痘法」を開発。イギリス人医師。

「種痘法」を開発

種痘法は、ヒトには強い毒性を持たない牛痘ウイルスを、天然痘にかかっていない人の皮膚に傷を付けて接種するもの。天然痘の予防法で、人類史上初の予防接種。

開発に至ったきっかけは、「牛痘にかかったウシを介して牛痘ウイルスに感染した人は、天然痘にかかりづらい」という噂を聞いたこと。種痘により天然痘は根絶。

近年の研究では、ジェンナーが用いたのは牛痘ウイルスではなく「馬痘ウイルス」だという説も出てきている※1。今後の研究で真相が明らかになるかも。

パスツール(1822~1895年)

パスツールはフランスの化学者・細菌学者。後述するコッホと共に、「近代細菌学の開祖」と呼ばれている。

パスツールの業績は下記のとおり。

  • ブドウ酒の発酵原因を特定
  • 「パスツールのびん」で生物の自然発生説を否定
  • 「加熱殺菌法」と「液体培養法」を確立
  • 「弱毒生菌ワクチン」を開発

ブドウ酒の発酵原因を特定

ブドウ酒の発酵が酵母によって行われることに気付く。アルコール製造工場にて、ブドウ酒が腐る原因の調査依頼を受けたことがきっかけ。

パスツールは元々微生物学者ではなかったが、これを機に微生物の研究をするように。

「パスツールのびん」で生物の自然発生説を否定

当時、微生物は自然に発生するものだと考えられていた。それ以前はネズミさえも自然に発生すると考えられていたので、無理はない。しかし、自然発生説に疑問を抱いていたパスツールは、微生物が本当に自然に発生するのか実験。

その際に用いられたのが「パスツールのびん」。これは空気中の細菌を含んだちりが入り込まないように作られたフラスコである。特徴的な形から「白鳥の首フラスコ」とも呼ばれている。

パスツールのびん 微生物学 歯科衛生士
パスツールのびん

「もし微生物が自然に発生するのなら、たとえ肉汁を滅菌したとしても腐るはずだ」という仮説を立てる。パスツールはびんに肉汁を入れ、加熱殺菌し、放置。肉汁はいつになっても腐らなかった。

実験から「微生物は自然には発生しない」ことが証明された。滅菌した肉汁に空気中の細菌が入り込まなければ、細菌は増殖どころか存在もしないことがわかった。この実験結果は「生物の自然発生説」を否定するものとなり、微生物学史を大きく動かした。

「加熱殺菌法」と「液体培養法」を確立

「加熱殺菌法」と「液体培養法」を確立した。

加熱殺菌法

加熱殺菌法は、いわゆる「低温殺菌法」のこと。100℃以下の加熱で、害のない程度にまで微生物を死滅させるもの。現在では、牛乳をはじめとするさまざまな食品の殺菌に用いられている。

ちなみに、低温殺菌法は「パスチャライゼーション」とも呼ばれている。この名称はパスツールの名を取って付けられている。さらに、低温殺菌された牛乳には「パスチャライズ牛乳」という別称がある。パスツールの名は、現代でも形を変えて残り続けている。それほどまでに偉大な人物だということがわかる。

液体培養法

液体培養法は、細菌を液体の中で培養する方法。準備も操作も簡単で、手っ取り早く細菌を培養することができる。

後述する「純粋培養法」とは相反する培養方法。

「弱毒生菌ワクチン」を開発

パスツールは弱毒生菌ワクチンのうち、「炭疽」「狂犬病」「丹毒」などのワクチンを開発。

弱毒生菌ワクチンは、細菌やウイルスなどの病原体の毒性を弱めたワクチン。毒性が弱いだけで、病原体そのものを接種するため、副反応としてその感染症の症状が重かれ軽かれ出る。

リスター(1827~1912年)

リスターはイギリス人外科医。外科手術での感染予防の原理を確立。

外科手術での感染予防の原理を確立

リスターはパスツールの業績を引き継いで、外科手術時にフェノールで術野や器具を消毒。これにより術後の化膿を大いに防止した。このことは、今日の外科手術の感染予防の原理になっている。

ちなみに、洗口液の「リステリン」はリスターの名を取って付けられている。歯科雑学。

コッホ(1843~1910年)

コッホはドイツの医師・細菌学者。パスツールと共に「近代細菌学の開祖」と呼ばれている。

コッホの業績は下記のとおり。

  • 「純粋培養法」を確立
  • 「炭疽菌」「結核菌」を発見
  • 「コッホの条件」を提唱

「純粋培養法」を確立

純粋培養法は、固形培地で細菌を培養する方法。パスツールが確立した液体培養法と相反するもの。

純粋培養法では、1種類の細菌だけを取り出すことができる。また、それを別の培地に移して、1種類の細菌のみを培養することも可能。純粋培養法により、さまざまな細菌の発見や研究がされた。

なお、この培養方法は、今日でも基本的な培養方法である。

「炭疽菌」「結核菌」を発見

コッホは、純粋培養法を応用した分離培養※により、「炭疽菌」と「結核菌」を発見。

※分離培養:培地から1種類の細菌だけを取り出して培養する方法のこと。

「コッホの条件」を提唱

コッホは「ある微生物が、特定の感染症の病原体であると認められるための条件」という、「コッホの条件」を提唱した。

コッホの条件
  1. その病気の病変部に必ずその微生物が見出されること
  2. その微生物は、その病気だけに見られること
  3. その微生物を純粋培養して感受性のある動物に接種したとき、もとと同じ病気を起こすこと
  4. さらにその病変部から必ずその微生物が再び分離培養によって取り出されること

この条件をすべて満たさない病原体もあるが、現在知られている多くの病原体は、この条件をもとに発見された。

イワノフスキー(1864~1920年)

イワノフスキーはロシアの微生物学者。ウイルスの存在に気付き、「ウイルス学の創始者」と呼ばれている。

ウイルスの存在に気付く

イワノフスキーは、タバコモザイク病の研究をする過程で、「細菌よりも小さな病原体」が存在することに気付いた。

タバコモザイク病は、タバコの葉に症状を起こす感染症。イワノフスキーは、タバコモザイク病にかかったタバコの葉の抽出液を細菌濾過器に通した。本来なら、通り抜けた液には細菌が含まれず、感染性をもたないが、通り抜けた液は感染性をもったままだった。このことから、タバコモザイク病の病原体は細菌よりも小さいことがわかった。細菌よりも小さな病原体……これが後に「ウイルス」と呼ばれることになった。

1935年、スタンレーによりタバコモザイクウイルスを結晶の形で取り出すことに成功。これをきっかけに、ウイルスの研究が急速に進展していった。

まとめ

微生物学史上の重要人物を6人まとめた。

  1. レーウェンフック:微生物の発見
  2. ジェンナー:種痘法の開発
  3. パスツール:生物の自然発生説の否定(“パスツールのびん”)
  4. リスター:消毒法の確立
  5. コッホ:病原体研究の基盤づくり(“コッホの条件”)
  6. イワノフスキー:ウイルスの発見

ざっくりとこんな感じ。