【歯科衛生士の微生物学】常在細菌叢

常在細菌叢についてのまとめ。

参考書籍

系統看護学講座 専門基礎分野 疾病のなりたちと回復の促進④ 微生物学 第11版第6刷

常在細菌叢とは

常在細菌叢は、私たちの体表や体内に生息する細菌群の総称。

特定の細菌だけを指す場合(例:黄色ブドウ球菌)は「常在細菌」という。

常在細菌と宿主の関係

私たちは常在細菌の宿主。常在細菌が私たちの体で行っていることは下記のとおり。

  • 宿主の摂取した食物・分泌物をエサにする
  • 宿主に必要なビタミン類を合成する
  • 宿主の免疫力を高める

常在細菌は宿主と共生しており、通常、宿主に害を与えない。

常在細菌叢の減少や死滅で起こること

常在細菌叢が抗生物質の影響を受けて減少したり死滅したりすると、下記のようなことが起こる。

  • 病原細菌に感染しやすくなる
  • 菌交代現象による菌交代症

病原細菌に感染しやすくなる

常在細菌は、私たちの体にほかの微生物が住み着くのを防いでいる。しかし、抗生物質の使用で常在細菌叢が減少・死滅すると、ほかの微生物を排除できず、感染症を起こしやすくなる。

菌交代現象による菌交代症

菌交代現象とは、常在細菌叢が減少・死滅して、わずかに存在していた病原細菌が優勢になること。その結果として起こる症状が菌交代症。

菌交代症の例

「抗生物質服用で起こる下痢」は菌交代症の代表的な例。腸内の常在細菌叢が抗生物質の影響により減少・死滅し、腸内に潜むわずかな病原細菌が活発化することで起こる。

常在細菌の例

私たちの体に分布する常在細菌を羅列する。

科や属についてはこちらの記事へ

歯・歯肉

  • レンサ球菌属
  • バクテロイデス属
  • フソバクテリウム属
  • ポルフィロモナス属

口腔

  • レンサ球菌属
  • マイコプラズマ属
  • カンジダ属(真菌)

皮膚

  • 表皮ブドウ球菌
  • 黄色ブドウ球菌
  • 緑膿菌
  • コリネバクテリウム属
  • レンサ球菌属

黄色ブドウ球菌は伝染性膿痂疹(とびひ)の原因菌。

鼻前庭

  • 表皮ブドウ球菌
  • 黄色ブドウ球菌
  • コリネバクテリウム属
  • レンサ球菌属

咽頭

  • レンサ球菌属
  • ナイセリア属
  • コリネバクテリウム属
  • ブドウ球菌属
  • 肺炎球菌 ※一時的
  • インフルエンザ菌 ※一時的
  • 髄膜炎菌 ※一時的

肺炎球菌やインフルエンザ菌、髄膜炎菌は一時的に定着することがあるが、必ず発症するわけではない。

  • ヘリコバクター・ピロリ

ヘリコバクター・ピロリは胃炎や胃潰瘍の原因菌。

小腸

  • 乳酸杆菌属
  • 腸内細菌科
  • バクテロイデス属

大腸

  • バクテロイデス属
  • フソバクテリウム属
  • 腸球菌属
  • 腸内細菌科
  • ビフィドバクテリウム属
  • ユーバクテリウム属

  • 乳酸杆菌属
  • ブドウ球菌属
  • レンサ球菌属

常在細菌による感染症

常在細菌は通常宿主に害を与えないが、下記の場合に感染症の原因となることがある。

  • 末期がん
  • 免疫抑制剤の使用

いずれも宿主の抵抗力が低下している状態。

常在細菌による感染症を「内因感染症」という。日和見感染症のひとつ(日和見感染症は、通常なら感染症を起こさないような細菌により起こる感染症のこと)。

内因感染症の例

内因感染症には下記のようなものがある。

  • ストレプトコッカス・サンギニスによる抜歯後の心内膜炎
  • 腸管手術後の腸管内嫌気性菌感染症

まとめ

常在細菌は私たちの体を守ってくれるもの。なくてはならない存在。しかし、私たちの抵抗力が下がると、常在細菌による感染症を起こすことがある。また、常在細菌が病原微生物に打ち勝てずに感染症を起こすこともある。

私たちの健康は、自身の抵抗力と常在細菌叢のバランスによって保たれている。