細菌のもつ、環境の変化を感知するしくみと対応について解説します。
細菌の環境変化の感知のしくみと対応
細菌は主に以下のようなしくみを利用して環境の変化を感知し、対応しています。
2成分制御系
2成分制御系とは、細菌のもつ2つのタンパクがリン酸化され、特定のDNAを転写するしくみです。
環境中の栄養は菌体表面に存在する「センサータンパク」が感知します。すると自動的にリン酸化されます。それを受けて菌体内にある「反応調節タンパク」もリン酸化され、DNA転写へと続いていきます。
走化性
細菌によっては「走化性」をもちます。走化性とは、化学物質に反応して運動する性質のことです。
走化性のある細菌は、環境中の栄養を感知すると鞭毛を回転させて近付いていきます。逆に害となるものを感知すると離れていきます。
ストレス応答
細菌は温度やpH、栄養、浸透圧などに変化が起こると、命を守るためにタンパクを産生します。このタンパクは環境変化というストレスによって産生されるので「ストレスタンパク」と呼ばれています。
密度依存的遺伝子発現調節(クオラムセンシング)
密度依存的遺伝子発現調節(クオラムセンシング)とは、自分の仲間の密度を感知し、密度に合わせて自分のもつ性質を発揮・抑制するしくみのことです。細菌はクオラムセンシングによって細菌同士でコミュケーションを取っています。
自分の仲間の密度は「オートインデューサ―」と呼ばれる、細菌が産生する物質の濃度から感知します。オートインデューサ―の濃度が低いときには産生されない物質が、その濃度が高くなると産生され、菌種によってはそれが病原因子になったり、菌体を発光させたりします。
たとえば緑膿菌では、仲間がまばらに存在するときには産生されない物質が、増殖すると産生され始め、毒性を強めていきます。
VNC状態
VNC状態とは、「生きてはいるが培養ができない状態」のこと。VNCは“viable but non-culturable”の略。
細菌の中には、低温や低栄養などから身を守るために、休眠状態(=増殖をしない)になるものがあります。生きているかどうかは、栄養を与えると菌体が大きくなったり、酵素やATPが産生されたりすることで確認できます。
VNC状態の菌は、増殖に適した環境になったり、熱や化学薬品などで処理をしたりすると、再び増殖を始めます。
「生きてはいるが増殖はしない」「身を守るための反応」という点で「芽胞」と似ています。しかし、芽胞は熱や化学薬品などに強い抵抗性を示す点で、VNC状態の菌とは区別されます。
細菌の環境変化の感知のしくみと対応のまとめ
細菌は下記のしくみを利用して、環境の変化を感知し、対応しています。
- 2成分制御系
- 走化性
- ストレス応答
- 密度依存的遺伝子発現調節(クオラムセンシング)
- VNC状態
歯垢は細菌のクオラムセンシングによって形成されています。覚えておきましょう!